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新型インフルエンザの現状と今後の課題  2010年2月

  矢印38 はじめに
 新型インフルエンザで今年度はその対応に追われることになりました。当初死亡例が多く重症タイプではないかと不安をかきたてられましたが、そのうち中程度という評価に代わりました。強毒性の鳥インフルエンザが人へ伝染し、人の間で世界的な大流行(パンデミック)をおこすことを想定した対応がそのまま実施されたことで、次第に現実とのずれが表面化してきました。宇宙服まがいの防護服を着て海外からの飛行機に担当官が乗り込み患者の発見をしようとするニュースや関西の学校で県下一斉の休校措置が取られるといった対策は次第に過剰反応と考えられるようになりました。更には関心が低下してくると例年の季節性同様かあるいはそれより軽症だろうという軽んじる傾向すらでてきました。新型はどうしても解明できない部分を残しながら流動的な状況が続きますので、絶えず情報を新たにしながら油断のない対策を柔軟に立てていくことが必要です。
 
  矢印38 インフルエンザを無くすことはできません
 毎年流行を繰り返すインフルエンザ(以下フル)は、天然痘のように地球上から無くすことができた疾患とは本質的に異なります。その理由は、
1) 症状での見分けることは困難(集団感染が最大の特徴であり、その他の症状に特徴がありません)
2) 初期に検査で診断できる例がある半面、検査をすり抜けることもあります。
3)潜伏期にも感染力があります
4)ワクチンの効果は、せいぜい40~80%程度ですし毎年効果が変動します。
5)多くの鳥類・哺乳類に感染するので、発生防止も感染拡大防止も不可能です。
等があげられます。
 これらの点を理解した上で、爆発的な流行を避け、緩やかな流行に持ち込むことが対策の基本となります。
  
  矢印38 新型フルの状況
 同じフルでも国により状況が様々であり、海外では重症例や死亡例が多いこともわかってきました。日本は入院数や死亡数が海外と比較すれば極端に低いことが注目されています。日本で被害が少ない理由が十分に検討されれば今後の対策に貢献することでしょう。
  タミフル・リレンザなどの薬は海外であまり使用されていないこと、迅速検査も先進国では実施されているものの多くの国では普及していません。日本で多い脳症が海外ではあまり見られないこと、海外では風邪症状等での早期受診の習慣がないため治療開始が遅れそのために重症化した例が指摘されていることなどは今回の流行でより鮮明になってきました。ワクチンは流行開始に間に合わなかったのですが、薬剤や検査キットが極端な品薄になることもなく流通しましたから流行規模が大きい割には大混乱には至らずに済みました。マスクの効果も一部見直されてきています。
  
  矢印38 新型フルへの対応
  新型フルは鳥由来のみ想定されていましたから、ブタ由来のウイルスにもかかわらず、準備されてきた種々の規制等からブタ由来の対策へ柔軟な変更ができず、不適当な対応が続きました。検疫強化や発熱外来はその効果が疑わしいまま強行されています。時間稼ぎとの評価もされましたが、稼いだはずの時間がどのように有効な結果をもたらしたかは疑問です。
  フルの流行では大半の軽症患者はさほど問題になりませんが、重症患者には十分な医療が受けられる体制が必要です。医療崩壊の進行するなかで重症患者の入院治療を行う医療機関の負担は重くなります。医療機関の役割分担が各地域で円滑に連携しながら機能していくことが重要となります。
  
  矢印38 ワクチンのトラブル
  ワクチンに関しては新型のため製造開始が遅れ、ワクチンの元となるウイルス増殖能が悪いため製造に手間取り、一度に供給できないため任意接種にもかかわらず優先順位が設定されました。接種前にかかってしまう人も多く見られました。ワクチンの納入予定が入手直前まで不明のため医療機関では予約も受けにくい状況が続きました。
  更に国産ワクチンだけでは不足が予想されたために海外からの輸入も初めて実施されることになりました。輸入ワクチンは国産とは成分が異なり、また日本ではほとんど実施されていない筋肉注射であることなどから、医療機関では敬遠されています。
  
  矢印38 季節性との相違
  新型フルでは国民の大半は免疫をもっていないと思われていましたが、ほとんどは軽症で経過しています。流行の中心は子どもであり、高齢者に罹患が少ないことから高齢者では過去に似たウイルスに罹患して、免疫が残っているのだろうと考えられています。罹患者が多いことから小児では脳症の患者が増加(従来より年長)しています。また少数ですが、インフルエンザウイルスによる肺炎や細菌性の肺炎、呼吸困難例、心筋炎などの重症例の存在が問題になってきています。ウイルス性肺炎は従来のフルではほとんど問題になりませんでしたが、今回の流行では治療に難渋し直接の死因となる急性呼吸窮迫症候群にまで進行する例があります。これは多臓器不全をきたす鳥インフルでの肺所見と基本的に同様であり、慎重な経過観察が必要となります。
  
   高齢者の入院例では大半が死亡している点も要注意です。
  従来の季節性フルとは異なり、健康な若者でも死亡したり、ごく一部では電撃型ともいえる急激に悪化したりするタイプも存在します。そのため現在では全体的に中等度よりやや重いとの評価もされています。
  今後、中高年層への波及が心配されています。

   
  鳥由来パンデミック到来の危険度は減少傾向との見方もありますが、ブタ由来のフルではたしてきちんとリハーサルができたかどうか、今後もじっくりと検証すべきでしょう。

「今、必要なことは 適切に恐れることだ」

                             及川医院 院長 及川 馨


※「日本小児科医会ニュース」の巻頭言(1月31日)に載せたものを一般の方向けに書き直しました。

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