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B型肝炎ワクチン接種で肝炎と肝癌を予防

1.はじめに

平成28年(2016年)10月から0歳児(平成28年4月以降生まれ)にB型肝炎が定期接種となります。定期接種の対象外の方では、自費になりますが、できるだけ早期に接種を開始することが望まれます。

  2002年WHOの推計で20億人の感染者、3.5億人の持続感染者
  高頻度国はアジアとアフリカ(8%以上)
  低頻度国は日米ヨーロッパなど(2%以下)

  B型肝炎ウイルスの感染者は、日本国内で約100万人と推定されています。感染後の経過は様々ですが、3歳以下の子どもが感染すると、キャリア(ウイルスを体内に保有した状態、持続感染)になりやすく、キャリアになると感染源となり、また慢性肝炎になることがあります。慢性肝炎になると長期にわたる治療を要し、最悪の場合、肝硬変や肝臓がんなどの命にかかわる病気を引き起こします。キャリアは非感染者に比べ肝細胞癌になる危険性が200倍以上になるともいわれます。

 また、急性肝炎から劇症肝炎を起こし、死に至るケースもあります。
 このように、B型肝炎ワクチンは、B型肝炎ウイルスが引き起こす様々な病気を予防します。できるだけ早く赤ちゃんにワクチンを接種して、将来の命を守りましょう。

2.肝炎

1)肝炎の種類
  ① ウイルス性肝炎(A,B,C,D,E)
  ② 薬剤性肝炎
  ③ アルコール性肝炎
  ④ 自己免疫性肝炎
などがあります。

2) ウィルス性肝炎
ウィルス性肝炎

① 慢性肝炎はほとんどがB型かC型です。
② 急性肝炎はA,B,E型が多く、発熱・倦怠・黄疸などが出現しますが、時間とともに軽快し治癒します。
③ 急性肝炎の一部は劇症肝炎となります。8週以内に高度の肝機能障害となり、脳症等をひきおこしたりしますので、集中治療を要し、生存率は30%~50%程度と低く、現代においても死亡率が高い重症疾患です。

3回接種している国
青色

  ほぼ全世界でB型肝炎ワクチンは接種されています。感染の危険性が高い場合にのみ接種する国もあります。2013年、先進国で定期的に接種されていない国は日本以外にはありません。

3.B型肝炎

  最大の課題はキャリア(ウイルスを体内に保有した状態)として持続感染し、肝細胞内に潜伏したウイルスはB型肝炎ウイルス由来の肝臓癌の原因となります。C型肝炎は内服治療により大半のウイルスの排除が可能となってきましたが、B型肝炎ウイルスは肝細胞の奥深くに潜り込み、完全排除は困難です。キャリアのまま一生を終える場合が大半ですが、ウイルスを持ち続けることはB型肝炎由来の肝臓がんの種を持ち続けることになります。

B型肝炎の特徴

  • ウイルスの持続感染が課題となります
  • B型肝炎s抗原陽性(ウイルス量が多い)の母親から生まれた児の25%がキャリアとなり、そのほとんどは分娩時に感染します。
  • B型肝炎s抗原陽性(ウイルス量が多い)の母親から生まれた児は母子感染予防をしなければ100%肝炎となります。
  • B型肝炎e抗体陽性(ウイルス量は少ない)の母親から生まれた児はキャリアにはならないものの、6%が劇症肝炎になります。
  • 母子感染でキャリアになった児は10歳代以降で肝炎を発症します。
     ⇒90%は臨床的治癒(無症状のままが続く)
     ⇒10%は慢性肝炎になり、更に肝硬変、最終的には肝臓がんになります。
 B型肝炎ウイルスが生涯にわたり持続感染することにより、慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんへの進行する恐れがあります。
 また、肝細胞内にわずかに残ったウイルスが免疫抑制剤等で劇症肝炎にまで暴走する危険性があります。


B型肝炎の課題

免疫抑制剤使用例ではB型肝炎ウイルスの再活性化が社会問題化してきました
  ⇒再活性化からの劇症肝炎発症が克服できない
抗ウィルス剤を使用してもウイルスの完全駆除はできない
  ⇒治療の目標はウイルス活性を鎮静化すること
  ⇒高齢化社会で発癌年齢層の増加
  ⇒肝癌の発症を完全には予防できない

結果として肝癌が減少しにくい状況があります。


1)B型肝炎の症状

・急性肝炎の症状:全身倦怠、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸、肝腫大、右背部の鈍痛・叩打痛、関節痛、関節炎、斑状紅斑、血小板減少、四肢の丘疹
・症状の出る率:1歳未満は1%未満、1-5歳は15%、5歳以上は30~50%
・慢性肝炎では自覚症状は乏しく、時に急性増悪で急性肝炎と同様の症状になります。

2)キャリア(持続感染)になる率

 母子感染により胎児や新生児へ伝染するのが従来から問題視されてきました。年少ほど感染を受けた場合にキャリアになりやすく、加齢とともに免疫の機能が発達してきて肝炎になりやすくなります。
 新生児では80%以上、1歳児は50%、2歳児は20%、5歳以上は5%がキャリアになるといわれます。
肝炎慢性化率
  妊娠初期~中期で妊婦の感染から胎児へのウイルスの移行は10%程度とまれであり、あるいは流産してしまいます。胎児期に感染してしまった場合は、出生後のワクチンによる感染阻止はできません。実際には分娩時に産道通過時の母子感染が大半であり、出生直後に感染阻止できる可能性があります。妊婦のウイルス量が多い時は(HBe抗原陽性のHBVキャリア)新生児の85%がキャリアになります。妊婦のウイルス量が少ないとき(HBe抗体陽性の場合)は児がキャリアになることはありませんが6%位に劇症肝炎発生の危険性があります。
  従来、日本では成人でB型肝炎ウイルスに感染した場合にキャリアになることはまれと考えられてきましたが、近年は輸入された性感染症による遺伝子型A(ヨーロッパに多い)のB型肝炎が増加しています。この遺伝子型Aでは肝炎は軽いものの、その10%程度が持続感染(キャリア)となって、慢性肝炎⇒肝硬変⇒肝癌へ進行していくことが注目されています。

3)母子感染以外の感染ルート

母子感染以外の感染ルート

  母子感染は激減したものの小児期に家族や集団生活の中での感染ルートがあります。また、海外との交流が活発化してきたことからB型肝炎の中でも遺伝子型Aのウイルスが増加し、新規感染の80%が主として性行為による感染で遺伝子型Aになっています。遺伝子型Aでは10%が持続感染し、慢性肝炎、肝硬変、肝癌への経過をとります。

4)成人の一過性感染(急性肝炎、慢性肝炎の急性増悪、劇症感染など)

  • 70~80%は不顕性感染(無症状)
  • 20~30%が急性肝炎を発症し、その2%が劇症肝炎となります。
    以前、劇症肝炎では約70%が死亡しましたが、現在でも死亡率は40~50%程度もあり予後の悪い疾患です。
  • なお、成人での重篤な慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝癌)は乳児期からの持続感染によるものがほとんどです。

B型肝炎の経過
5)B型肝炎の治療

① 急性肝炎
 一般には自然治癒するので、抗ウイルス剤は不要。食欲低下があれば輸液。肝庇護剤は使用しません。(肝庇護剤はウイルス排除の遅延化をきたし、持続感染化となるおそれがあるため。)
重症化の場合は抗ウイルス剤を使用します。
劇症化が懸念される場合は、拡散アナログ、免役抑制剤、血漿交換、血液透析などが使用されます。さらに進行する場合は肝移植になります。

② 慢性肝炎
 持続感染例ではウイルスの完全排除は困難なため、治療の目標は進行をできるだけ食い止めることが目標になります。

③ B型肝炎の治療は「肝癌への進行を抑制すること」であり、臨床的には
イ)セロコンバーション(B型肝炎ウイルスの活動がヒトの免疫機能により抑え込まれた状態,)
ロ)肝炎の鎮静化
ハ)ウイルス量の低下
ニ)再活性化による劇症肝炎のリスクを回避する
を目標にします。
再活性化;B型肝炎ウイルス量がゼロに近い状態から、再び激しい増加に転じること

6)B型肝炎ウイルスの遺伝子型

B型肝炎ウイルスは遺伝子型がAからJまで9つあり、さらに細分化されますが、主な型は以下の通りです。

遺伝子型 地域特性 日本における特徴

欧米型、アジア型、
アフリカ型

日本では若年者を中心に増加しています。
軽い急性肝炎後、約10%が持続感染となります。
アジア型、日本型

日本型の感染者はほとんど無症状で持続感染のまま
一生を終えます。肝臓癌になる確率は低いものの、
一部では劇症肝炎となります。
日本型のB型肝炎の約10%を占めます。

東南アジア型
東アジア型
肝臓癌を発症しやすく、日本のB型肝炎の約85%を占
めます。


7)B型肝炎ウイルスの血清型

遺伝子型と血清型は必ずしも同じではありません。B型肝炎ウイルスs抗原蛋白の抗原性による血清分類であり、4つの亜型adw、adr、ayw, ayrがあります。抗原決定基aは全ての血清型に共通しているので、抗a抗体を含んでいれば、どの血清型s抗原にも結合でき有効です。
日本ではadrが70‐90%、adwが10-30%、他はまれです。
共通抗原のaが含まれていれば免役は獲得されます。


4.B型肝炎ワクチン

1986年 母子感染防止事業により公費で接種が開始されました。現在は健康保険で実施されています。
1992年 WHOがB型肝炎ワクチンを全世界の国々が実施するように勧告。2013年までに183カ国で乳幼児の予防接種を導入しています。
2016年10月から定期接種となります。

1)定期接種(2016年10月~)  

  推奨されるスケジュールは
初回 接種 生後2ヶ月
2回目接種 生後3ヶ月
3回目接種 生後7~8ヶ月

定期接種

2)B型肝炎予防(定期以外の任意)

 接種はいつからでも可能で、4週間隔で2回接種し、20~24週に3回目を接種するのが標準。
 若いほど抗体獲得率が高い傾向があり、40歳までの抗体獲得率は95%、40~60歳で90%、60歳以上は65~70%に低下します。
 ワクチン3回接種後の防御効果は20年以上続くと考えられますが、抗体持続期間は個人差が大きく、3回接種完了後の抗体価が高い人が持続期間も長くなります。医療関係者以外の人は3回接種後の追加は不要です。

3)母子感染予防(2013年10月~)

9~12
HBIG                
ワクチン            
検査              

 出生直後にHBIG(乾燥抗人免疫グロブリン)を注射する理由は、ワクチン接種で新生児に免疫ができるのには時間がかかりますから、免疫ができるまでの期間をHBIGでカバーしておくためです。
 HBIGの接種を1回、HBワクチン接種を3回行うと、90%以上の赤ちゃんでB型肝炎の感染は防止できます。母子感染予防ができたかどうかは生後9-12ヶ月に血液検査でHBs抗原の有無を確認して判定する必要があります。

  • 児の血液検査で免疫が十分にできていない場合は,肝臓の専門医療機関へ紹介してもらいます。   
  • 母子感染防止がうまくいかなかった赤ちゃんの血液や体液にはウイルスが含まれています。B型肝炎に免疫のない人で傷がある場合は赤ちゃんの体液に素手で触るときは注意が必要です。
  • 赤ちゃんの体にできた傷(出血するような)や(浸出液が多い)湿疹はガーゼや(包帯)絆創膏やガーゼ、服などで被ってあげてください。
  • 顔やよだれを拭くタオルは赤ちゃん以外の人が使うことは避けてください。
  • 赤ちゃんの排泄物で汚れたオムツは普通に処理し手洗いをきちんとしてください。

     B型肝炎に感染した赤ちゃんと接する機会の多い人は、HBワクチンを接種しておくことをお勧めします。B型肝炎に免疫のない人でもHBワクチンを打つことで感染を防ぐことができます。

  • 母乳を与えている場合、乳頭に傷があったり、出血したりしている場合は治るまで母乳は避けるようにしてください。 
  • B型肝炎の母子感染予防を行う場合、お母さんはB型肝炎のキャリアですが、定期的な診察を受けていないことがよくあります。お母さんが内科医(肝臓専門医が望ましい)受診をするように勧めてあげてください。
  • また、お父さんや他の同居家族がHBワクチンを受けていない場合はHBワクチンを勧めるようにしてください。日本では健康保険の適応はありませんが、全世界で推奨されています。

    注) 四柳宏先生監修の「集団生活の場における肝炎ウイルス感染予防」のための手引き・ガイドラインを参考にしました。

4)針刺し事故の場合

 早期(7~14日後まで)に免疫グロブリン(乾燥抗人免疫グロブリン)の筋肉内接種に加えてB型肝炎ワクチンを接種すれば感染予防が可能になります。

5)B型肝炎ワクチン定期接種化が必要なおもな理由

  1. 父子感染、保育園などの感染がみられること(キャリアでは血液だけでなく体液が感染源になります)
  2. 外国との交流が年年盛んになっており、海外から入ってきたB型肝炎ウイルスの感染を受ける機会が増えています。
  3. 結果として若年成人を中心にB型急性肝炎が増加して来ました
  4. B型肝炎ウイルス感染ではたとえ免疫ができて肝炎が治癒に向かってもウイルスの遺伝子が肝細胞内に残り、再び増殖し始めることがあります(B型肝炎ウイルスの再活性化。これにより発症した肝炎はデノボ肝炎といわれ、持続感染から肝硬変、肝臓癌への進行や劇症肝炎になることがあります。)つまりウイルスを完全に体内から追い出すことはできないのが今の医療の現状です。
  5. B型肝炎ウイルスの感染から個人を守るために、更には、キャリアへの偏見や差別を排除するためにも、集団全員が免疫をもって感染の拡大を防止することが必要です。

6)B型肝炎ワクチン定期化の問題点

  • 接種量が10歳未満は0.25mlと海外の半量
  • 海外では皮下注は禁忌になっているが、国内では皮下注
  • 0歳で3回接種が完了しないと残りは自費になる
  • 3回目の接種が1才になると対象外となります。2回だけでは効果が不十分です。


2016年3月

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