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狂犬病ワクチンについて

  狂犬病は、人をはじめ全ての哺乳類で脳炎を起こして死亡させる重症疾患です。日本国内では1957年を最後に感染例がなく、1970年にネパールで1例、2006年にフィリピンで2例、現地で感染し帰国後に発病・死亡しています。現代でも先進国を含む世界のほとんどの国で、狂犬病ウイルスをもった動物が存在しています。

 厚労省:狂犬病の発生状況
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/pdf/03.pdf
狂犬病の発生状況

 狂犬病ウイルスは石鹸で手を洗えば死ぬし、空気中でもすぐに死滅するほど弱いウイルスです。しかし、感染後、傷から神経系を通して一日に数~数十mmのスピードで脳に向かって進むといわれ、発症すれば致命的となります。したがって咬まれた場所により潜伏期間が異なります。例えば人間が足を咬まれたら、脳に達するのは2年から3年後になることもあります。それまでほとんど自覚症状がないので、咬まれたことの危険性を忘れてしまう人が多いのです。感染は深く静かに進み、発症した時はもう手遅れになります。多くの場合、潜伏期間は1~3か月ですが、早ければ数日、長い場合は1年以上にもなります。 
 狂犬病は、発病するとほぼ100%死亡する、治療法のない病気です。海外では広くワクチンが流通し、また研究が進歩し、日本の接種スケジュールよりも先進的な接種方法が開発されています。海外で咬傷後に接種が推奨されている抗狂犬病免疫グロブリンは、国内で製造・販売されていないため入手困難であり、「WHO推奨の国際的な曝露後免疫」は実施できていないのが現状です。
 2006年以後、海外で動物に咬まれて帰国した人の治療希望が急増したため、狂犬病ワクチンは品薄状態となりました。以後、現状では5万本程度しか製造ができない国産ワクチンを予防に使うことが難しくなってきました。
 そこで当院では海外で流通している狂犬病ワクチンを輸入して接種することにしました。ワクチンは海外で広く使用されているサノフィパスツール社製です。
 なお日本国内に狂犬病の犬はいませんので、国内で犬に咬まれたときは治療の対象にはなりません。

  狂犬病ワクチンの接種方法(WHO方式)

(1)咬まれる前に狂犬病ワクチンを接種していなかった場合

咬まれた後の対応暴露後接種といいます):

先進国へ行く人、あまり咬まれるリスクのない方は、事前にワクチンを打つ必要はありませんが、実際に海外で咬まれてしまった後では、次の日程で4週間に5回接種します。

咬まれた日(0日)  全ての傷口を石鹸と水で徹底的に洗ってから病院へ行く。遅くとも5日以内に行く。病院では傷口の治療、抗生物質投与、狂犬病ワクチン1回目、抗狂犬病ガンマグロブリンを接種する。

3日後

 狂犬病ワクチン2回目を接種する。

 7日後

 狂犬病ワクチン3回目を接種する。

 14日後

 狂犬病ワクチン4回目を接種する。

 28日後

 狂犬病ワクチン5回目を接種する。
(0,3,7,14,28日と表記します) 

 なお、破傷風ワクチン(トキソイド)の未接種の場合は、破傷風を含んだワクチンも咬まれた日に接種することが望ましい。
 注)抗狂犬病ガンマグロブリンは国内で製造・販売されていない

 (2)旅行前に狂犬病ワクチンを接種する場合

 旅行前の接種(暴露前接種といいます)

4週間に3回接種します。なお時間のない場合には3回目を21日目に接種する方法もあります。 

0日

狂犬病ワクチン1回目を接種

7日

狂犬病ワクチン2回目を接種

21又は28日

狂犬病ワクチン3回目を接種

(0,7,21or28日と表記します)

(3)ワクチンの効果には期限があります

 時間がたったら追加接種をします。

1年後

狂犬病ワクチン4回目を接種     

以後5年毎

狂犬病ワクチンを1回接種


(4)暴露前接種をした後で咬まれた時(暴露後接種)

0日

全ての傷口を石鹸と水で徹底的に洗ってから病院へ行く。
院では傷口の治療、抗生物質投与、狂犬病ワクチンを接種する。

3日

狂犬病ワクチン2回目を接種

(0,3日と表記します)

(5)暴露前接種から5年以上経過した場合

事前に接種しなかった場合と同じく3回接種です。


 WHO方式で暴露前接種を行うメリット

咬まれた時すぐに病院に行けない場合で、接種開始が遅れても効果が期待できる。
抗狂犬病ガンマグロブリンを接種しないですむ。ガンマグロブリンは血液製剤なので、エイズなどの感染リスクがゼロではない。
渡航先で病院に行く回数が2回ですむ。
抗狂犬病ヒトガンマグロブリンは国内で入手不可。 


 WHO方式で暴露前接種を行うデメリット

暴露前接種は自費になります。咬まれた後の暴露後接種は、海外旅行傷害保険や健康保険でカバーされます。暴露前接種は、これらの保険でカバーされませんので自費になります。


 WHO方式で暴露前接種をお勧めしたい人

海外で病院から離れた僻地に滞在する人

動物を扱う人や研究者、洞窟探検家

野犬の多い地域(特に東南アジア)に滞在する人

 
 輸入ワクチンを優先的に使用する場合

0,7,28日のスケジュールで暴露前接種を行う場合

輸入ワクチンには、暴露前接種の方法は0,7,28日と記載されています。
国産ワクチンは正式には0,7,28日の接種方法を認めていません。研究により国産ワクチンで0,7,28日の接種を行った場合でも効果があることは示されていましたが、1と28の2回では防御レベルに達していないこともあります。
当院では今後原則として輸入ワクチンを優先的に暴露前接種に使用するようにします。

海外のワクチンを使用して一連の接種を開始しており、健康保険を使用せずに継続接種をする場合 基本的に同じワクチンで接種を継続することが、より望ましいためです。

 国産ワクチンを優先的に使用する場合

健康保険を使用して暴露後接種を行う場合には、日本で認可されていない輸入ワクチンは保険適用になりませんので、国産ワクチンを使用します。

 
 当院での狂犬病ワクチン

海外への渡航時         

平成26年3月18日以降は輸入ワクチン(サノフィパスツール社製)を使用し、3回(筋肉内)接種を基本とします。
過去に国産ワクチンで接種した方は追加をそのまま国産ワクチンでする場合もあります。

海外で咬まれ帰国した場合             国内の医療保険が使える場合は、国産のワクチンを使用します。当日、3日後、1w後、2w後、4w後の5回接種
(0,3,7,14,28日)



 狂犬病の症状

潜伏期間   

1~3か月(時に数年)、数日から1年以上の幅がある。咬まれた場所にもよる。脳に近いほど潜伏期が短く危険。

前駆症状       

頭痛、発熱、倦怠感、咬傷部位の熱感・掻痒感、知覚異常が数日続く

特徴 的症状         

運動過多、興奮、不安狂躁
        ⇒錯乱、幻覚、攻撃性
         ⇒恐水症、恐風症
          ⇒全身まひ、昏睡、呼吸障害        ⇒ 死亡

 注)狂犬病が発病したら抗狂犬病免疫グロブリンやワクチンは無効。2004年以降で予防接種なしで発病後に回復した事例が3人あるだけ。

 WHO推奨の狂犬病暴露後発病予防治療指針

分類

接触の種類

行うべき予防治療



・動物を撫でたり、餌を与えた場合
・傷や病変のない皮膚をなめられた場合 

 接種歴が信頼できるものなら治療不要

 

 ・素肌を軽く咬まれた場合
・出血のない小さな引っ掻き傷や擦り傷
 ただちに狂犬病ワクチン接種開始。10日間の観察で加害動物が健康であれば、または加害動物を安楽死させ、適切な方法で検査し狂犬病陰性と判断されれば治療を中止

 

・1か所ないし数か所の皮膚を破る咬傷、ひっかき傷
・傷のある皮膚をなめられた場合 
・唾液による粘膜汚染
・コウモリと接触した
場合                                                                                  
 

 ただちに抗狂犬病免疫グロブリン*と狂犬病ワクチン接種開始。10日間の観察で加害動物が健康であれば、または加害動物を安楽死させ、適切な方法で検査し狂犬病陰性と判断されれば治療を中止
 * 日本では入手困難


治療指針の注意点

a  齧歯類(リス・ネズミ・ハムスター・モルモット・ヤマアラシなど)、家兎・野兎に咬まれた場合でも発病予防が必要になることがある
b   狂犬病の発生が少ない地域では、加害動物が外見上健康なイヌ、ネコであって、加害動物を観察できれば、動物に何らかの異常が見られるまで、曝露後発病予防開始を延期することもできる
c  10日間という観察期間は犬と猫、シロイタチにだけ適応される。種の保存が脅かされている希少動物を除いて、狂犬病が疑われる犬、猫以外の家畜や野生動物は捕獲して安楽死させ、適切な方法で狂犬病の検査を行う
d  10日間という観察期間は犬と猫、シロイタチにだけ適応される。種の保存が脅かされている希少動物を除いて、狂犬病が疑われる犬、猫以外の家畜や野生動物は捕獲して安楽死させ、適切な方法で狂犬病の検査を行う

  
 主な狂犬病危険動物

 地域

 危険動物

アジア 

 イヌ、ネコ

北米

 コウモリ、アライグマ、スカンク、キツネ、コヨーテ

 ヨーロッパ

 キツネ

 中南米

 イヌ、コウモリ、コヨーテ、ネコ

 アフリカ

 イヌ、マングース、ジャッカル、ネコ

狂犬病は9割以上がイヌによるが、咬まれた場合はどの動物でも危険性あり
* 海外では飼い犬でも予防接種をしていない場合が多く、野犬と同様に危険

狂犬病の犬   狂犬病ウィルス

左:狂犬病の犬。         :狂犬病ウイルス(弾丸の形)
獰猛な顔、よだれが多い。

 

 参考 日本式接種方法

曝露前接種    4w間隔で2回皮下接種し、6~12か月後に追加の皮下接種
曝露後接種  曝露当日1回目、その後、3,7,14,30、90日に皮下接種
その他  以前に曝露後接種と受けた人で、6か月以内に再度咬傷をうけた場合はワクチン接種不要。曝露前接種を受けた6か月以上後で再度咬傷をうけた場合は、初めて咬まれた時と同じく6回接種。


 
参考資料

1) 海外渡航者のためのワクチンガイドライン2010:日本渡航医学会発行
2) 厚労省HPにある狂犬病のQ&A
  http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html
3) 最新感染症ガイド:米国小児科学会編集;29版、Red Book 2012
4) 海外旅行者のための狂犬病ワクチン接種:IRSR;Vol.28 p 76-77:2007年3月
5)  名鉄病院予防接種センター;予防接種に関する資料
  http://www.meitetsu-hospital.jp/kakuka/yobou/index.html
6) 上木英人:復刻版 東京狂犬病流行誌;2007年第1刷 

   
    2014年3月

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