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狂犬病現状と予防接種
<海外の状況>狂犬病は発病すればまず100%死亡は免れない。海外では飼い犬も野犬も等しく危険。アジアでは猫による狂犬病も多い。
注意:2012年に指定地域より削除された国や地域は英国、スエーデン、ノルウエー、アイルランド、フィンランド、他2013年に台湾も削除
主な狂犬病危険動物(注:すべての哺乳動物は感染する)
地域 |
危険動物 |
アジア |
イヌ、ネコ |
北米 |
コウモリ、アライグマ、スカンク、キツネ、コヨーテ |
ヨーロッパ |
キツネ |
中南米 |
イヌ、コウモリ、コヨーテ、ネコ |
アフリカ |
イヌ、マングース、ジャッカル、ネコ |
・動物に噛まれた時、ひっかかれた場合の発病予防(暴露後接種)
① 傷口を石鹸と流水で15分以上しっかりと洗い流す。
② 直ちに病院受診し、消毒用アルコールまたはポピドンヨード液で消毒する。
③ 狂犬病ワクチンを0、3、7、14、30日の5回接種する。
④ イヌやネコは口腔内にパスツレラ菌などを持っていることが多く、化膿止めを3日くらい内服しておくのが望ましい。
・あらかじめ予防で接種しておく場合(曝露前接種)は、0,7日、3~4w後の3回接種しておく。噛まれた時は当日(0日)と3~7日に2回の追加接種を行う。
さらに1年後に追加し、以後5年毎に追加する。
狂犬病ワクチンを受けた方がよい方
曝露前接種
1) 年齢に関係なく、野生動物と接触のある方。
2) 獣医師、野生動物保護管、狂犬病ウイルス研究者
3) 狂犬病発生地域への渡航者
暴露後接種
1) 狂犬病動物によって咬傷を受けた方
2) 狂犬病ウイルスに曝露された可能性のある方
3) 狂犬病発生地域への渡航者で、動物との接触の可能性があった方
*咬傷以外に死骸との接触、エアゾルでの感染、狂犬病患者の治療などにも注意
狂犬病ワクチンの安全性
1) 軽度の副反応・・・注射部位の痛み・発赤・かゆみ(30-74%)
頭痛・悪心・腹痛・筋肉痛(5-40%)
2) 中程度の副反応・・・じんま疹・関節痛・発熱(追加接種時の6%)
ごくまれにギラン・バレー症候群
3)重篤な副反応・・・・ショック?(報告例はなし)
日本の狂犬病発生状況 1947年~
年 | 1947 | 1948 | 1949 | 1950 | 1951 | 1952 | 1953 | 1954 | 1955 | 1956 | ~ | 1970 | 2006 |
患者数 | 22 | 46 | 74 | 57 | 13 | 5 | 3 | 1 | 0 | 1 | 1 | 2 | |
死亡数 | 16 | 40 | 79 | 63 | 13 | 6 | 3 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 2 |
死亡率 | 73 | 115 | 108 | 90 | 100 | 120 | 100 | 100 | 199 | 100 | 100 | ||
ネパール | フィリピン |
・国内での発生は1956年以降ない。1970年、2006年は海外からの輸例。なお2019年5月にフィリピンから来日した人の狂犬病が報告されている。
・イヌの狂犬病発生は1956年6頭以後なし。1956年最後の狂犬病はネコによる咬傷。
病原体と感染経路
1) 病原ウイルス:リッサウイルス属ラブドウイルス科のRNAウイルス
2) 感染源:ヒト患者の90%以上はイヌの咬傷。理論上すべての哺乳動物に感染する。
3) ウイルスは感染した動物の唾液中に大量に含まれ、その動物による咬傷やひっかき傷から感染伝搬する。稀には実験室内のエアゾル感染や洞窟内での感染、素手で感染動物死体を触ったことなどでの感染もある。患者から健常者への感染や咬傷によるヒトヒト感染は確定されていない。狂犬病と診断されずに死亡した患者の角膜や臓器移植からの感染も報告されている。
4) 咬傷が複数にわたる場合や、頭部、顔面、手など脳まで短距離の場合は潜伏期が短くリスクが大きい。
臨床経過
1) 潜伏期間:頭部の重症な傷からは最短5日以内の発現例があるが、平均1~3か月であり、数日~1年以上(数年)の幅がある。
2) 病型は2つあり、一つは脳炎型(狂躁型)、もう一つは麻痺型。
3) 脳炎型:発熱、咽喉頭痛、倦怠感、頭痛、悪心、嘔吐、脱力などで発生し、受傷部位の感覚異常や掻痒感が見られる。感覚異常の範囲は徐々に拡大し、重度の中枢神経異常(激越、抑うつ、不安発作、けいれん発作)などを呈する。
4) 恐水症、空気恐怖症:水を見たり飲んだりしたり、空気の流れを感じたりしたときに、激越、恐怖心、攣縮などを生じ、窒息や誤嚥に繋がり、昏睡から死に至る。
5) 麻痺型:頻度は多くないが、発熱と上行性の運動麻痺を生じる。病状進行に伴い、脳炎型の症状を認める場合が多い。
ラビピュール筋注用を接種される方へgskpro.com/content/dam/.../RBNPBROC190002.pdfより
狂犬病の診断
1) 潜伏期間中の診断は困難。
2) 動物では脳組織中のウイルス抗原を直接蛍光抗体法で検出。ウイルス分離や核酸同定も可能。
3) ヒトの場合、生前診断では頸部うなじ部分を皮膚生検する直接蛍光抗体法、唾液からの核酸検出法などがあるが、感度は良好とは限らない。他に血清、髄液でも抗体の検査がされる。
注)咬んだ動物が捕獲され、その後10日間経過観察または適切な実験室診断で狂犬病陰性と判断されたら、狂犬病は否定され、治療は中止できる。
生存例
2004年米国ウイスコンシン州で一人、2011年にカリフォルニア州で一人、他フィリピンで2人(未確認)。不完全な接種者で15人程度の生存者が報告されている。
狂犬病ワクチン
・国産のワクチンは現在製造中止。KMB(旧化血研)がドイツGSK社のラビピュール筋注用を輸入販売開始(2019.7.26)しているが供給量は十分とはいえない。
・当院ではフランスのサノフィ・パスツール社のヴェロラブ筋注用を輸入して接種。
*海外では重度の曝露例に抗狂犬病グロブリン製剤も接種されているが国内では入手困難。曝露前接種が完了しておれば抗狂犬病グロブリン製剤は不要。
2019年11月