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風疹について
1.風疹の流行
日本では過去において、5~6年毎に大規模な全国流行 (1976、1982、1987、1992年)があった。それ以後、幼児が定期接種の対象となり、大規模な流行は無い。
2004年には、約4万人の流行があり、10人の先天性風疹症候群が報告された。
2007年までは全国約3,000カ所の小児科定点より報告されたが、2008年から全数把握疾患(5類感染症)となった。
2011年にアジアで風疹の大流行(ベトナム、カンボジア、フィリピン、マレーシアなど)があり、国内に持ち込まれた。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html
国内の発生状況は感染研のHP参照
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html
日本国内では2013年22週以降は減少傾向にある。ただ今後流行の影響を受けて先天性風疹症候群の報告が続くものとみられる。成人の未接種が多く、再び流行が再燃してくることも懸念される。
2.風疹ワクチン接種状況
ただし風疹ワクチンの過去の接種率は70%程度のことが多く、未接種者が多いことに注意。風疹ワクチンの実施率は感染研の以下のデータを参照。
http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/277/graph/dt27711.gif
3.風疹の免疫状態
男性は30代後半をピークに抗体価が低い。発病を予防するにはHI抗体価が8倍程度では十分な効果が得られにくい。不顕性感染が多いし、検査の誤差や信頼性なども考えると32倍程度のレベルが望ましい。
また流行を抑制するには95%以上の接種率が望ましいとされる。風疹は麻疹よりも伝染力が強くないこと、また、1回接種の有効性は95%以上であることから、接種率が高ければ、風疹排除には風疹ワクチンの1回接種で十分であるといわれる。しかし、十分に高い接種率を維持することは現実には困難であり、1回の接種では未接種者が溜まってくると再び流行を招くことがある。 カナダでは1983年からMMRの接種が実施され流行は下火になったものの、1997年には再流行に見舞われ、2回接種を導入した。
4.風疹は誤診が多く、発疹だけでは診断できない
風疹ウイルスはヒトにのみ感染する。飛沫感染や接触感染で、上気道から体内に入りリンパ節で増殖し、ウイルス血症を起こして全身に広がる。潜伏期間は2~3w(平均16~18日)であり、伝染力は麻疹や水痘より弱い。ウイルス排泄期間は発疹出現前後1wと言われる。発熱を伴う場合は解熱後にウイルス量は激減する。
5.風疹の症状
「発熱、発疹、リンパ節の腫れ」が特徴的である。
1)発熱・発疹より先に耳介後部から首筋にリンパ節腫大。腫れは比較的大きく、圧痛がある。
2)発疹は小さく淡赤色で、顔から始まり、急速に体や手足に広がる。3~5日ですべての発疹が消える。しかし、不顕性感染が小児で50%、成人15%にみられる。
6.風疹と鑑別が必要な疾患
風疹の発疹は、伝染性紅斑(リンゴ病)、夏風邪による発疹症、溶連菌感染症、修飾麻疹などとの鑑別が困難なこともあり、発疹だけでは診断できない。
7.風疹の診断例
大阪での報告された風疹の408例では、
3徴候(発熱、発疹、リンパ節腫脹)すべて 243例(59.6%)
発熱と発疹 110例(26.9%)
発熱とリンパ節腫脹 26例(6.4%)
発疹のみ 28例(6.9%)
発熱のみ 1例(0.2%)
であった。
また、大阪府内で2012年に麻疹症例として101例が報告されたが、その後の検査等で 4例のみ麻疹と診断され、97例(96.0%)は否定された。また否定された97例中36例(37.1%)は風疹と診断された。その36例中32 例(88.8%)は発熱と発疹のみであった。
(IASR Vol. 34 p. 97-98: 2013年4月号)
2013年、東京で大人の風疹と診断された27例の情報が学界雑誌掲載前に公開された。
症状 |
症例数 | % |
発熱 | 26 | 96 |
結膜炎 | 21 | 78 |
頭痛 | 17 | 63 |
咽頭痛 | 14 | 52 |
関節痛 | 7 | 26 |
咳 | 4 | 15 |
リンパ節腫脹 | 25 | 93 |
発疹 | 23 | 85 |
発疹の融合 | 10 | 37 |
色素沈着 | 5 | 19 |
加藤博史ら 成人における風疹の臨床像についての検討
感染症学雑誌緊急公開
http://www.kansensho.or.jp/topics/pdf/1307_fushin.pdf
8.風疹の合併症
・血小板減少性紫斑病(1/3000,急性、発疹後2~14日)
・急性脳炎(1/4000~6000人)
・関節炎(成人女性に多い、一過性,1w~数カ月)
・脳炎(1/6000、発疹後2~7日、死亡率20%)
・肝炎(ときに成人や年長児、軽~中等度の異常)
・溶血性貧血(非常にまれ、発疹後3~7日で腹痛、嘔吐、嘔気、黄疸、顔色不良)
・進行性風疹全脳炎(極まれ、SSPEの風疹版、世界で20例報告)
9.風しんの歴史と先天性風疹症候群(CRS)
1940年 オーストラリアで風疹の大流行
1941年 シドニー小児病院で先天性白内障多発した。先天性白内障の78人中、妊娠中に風疹の罹患者が68人(87%)であったことを眼科医Greggが報告し、この時初めて風疹は胎児に毒性が強いことがわかった。
1964~65年 米国で2万人の先天性風疹症候群
1966年(返還前) 沖縄でも408名の先天性風疹
1977年 日本で女子中学生の定期接種の開始
米国ではCRSが1964~65年に大流行した
罹患数 |
1250万人 |
先天性風疹症候群 | 2万人 |
難聴 | 11,600人 |
白内障 | 3,580人 |
精神発達障害 | 1,800人 |
10.先天性風疹症候群(CRS)と先天性風疹感染症(CRI)
妊娠初期に風疹罹患があると胎児の諸器官に障害をきたす(先天性風疹症候群)。妊婦が不顕性感染であっても障害を生じたり、生後、感染源となったりすることがある。胎児が不顕性感染であっても生後感染源になることもある。
眼 |
白内障、網膜症、先天性緑内障 |
心臓 | 動脈管開存症、末梢肺動脈狭窄 |
耳 | 難聴 |
神経や精神 | 行動異常、髄膜脳炎、知能障害 |
他 | 成長障害、骨疾患、肝脾腫大、血小板減少症、紫斑病 |
遅れてでる病気 | 糖尿病、甲状腺疾患、自己免疫疾患 |
*CRS,CRIでは生後数ヶ月~1年以上、周囲に風しんウイルス排出する。また、諸臓器には、生後数か月~数年にわたりウイルスが見いだされる。
先天性風疹症候群の写真
右上:難聴
右下:先天性緑内障
中央:自閉症、知能障害
左上:白内障、強度近視、強度難聴
左下:骨疾患
Rubella and Congenital Rubella Syndrome:Lessons from USA, 1964-2012
http://www.sabin.org/sites/sabin.org/files/LouisCooper2.pdf
国内での先天性風疹症候群の詳細
器官・機能 |
陽性例数 | 障害陽性率 | 症候 | 例数 | 症候 | 例数 |
眼 | 156 | 51% | 白内障 | 122 | 角膜混濁 | 4 |
網膜症 | 46 | 虹彩異常 | 3 | |||
小眼症 | 16 | 網膜出血 | 2 | |||
緑内障 | 7 | 視神経萎縮 | 2 | |||
心臓 | 162 | 60% | 動脈管開存 | 112 | 大動脈弁狭窄 | 3 |
肺動脈狭窄 | 54 | 三尖弁不全 | 3 | |||
心房中核欠損 | 32 | 卵円孔開存 | 2 | |||
心室中核欠損 | 14 | 心臓右位 | 2 | |||
肺動脈圧亢進 | 5 | 持続性左大静脈 | 2 | |||
耳 | 336 | 96% | 両側性難聴 | 331 | 片側性難聴 | 5 |
精神 | 141 | 90% | 発達遅滞 | 116 | 遅滞の疑い | 25 |
血小板 | 40 | 血小板減少 | 28 | 出血・貧血 | 8 | |
血小板減少性紫斑病 | ||||||
肝臓 | 6 | 肝臓肥大 | 10 | 肝機能不全 | 3 | |
脾臓 | 6 | 脾臓肥大 | 6 | |||
肺 | 6 | 間質性肺炎 | 2 | 肺形成不全 | 2 | |
脳 | 50 | 小頭症 | 19 | 脳形成不全 | 3 | |
カルシウム沈着/異常CT | 19 | 脳髄膜炎 | 2 | |||
水頭症 | 3 | 脳性まひ | 2 | |||
てんかん | 3 | |||||
骨 | 10 | 小額 | 3 | |||
他 | 7 | 発疹 | 2 |
Katow.S: Surveillance of congenital rubella syndrome in Jpan.1978-2002: effect of revision of the immunization law. Vaccine 22:4084-4091,2004
11.風疹の流行と先天性風疹 CRS
1)予防接種のない時代は数年ごとに大流行があり、多数のCRS発生があった。
2)中途半端な接種率(1990年代のギリシャの例など)では、流行規模は縮小するために罹患年齢は上昇し、全国で患者は少ないがCRSは増加
3)早期から接種開始し、2回接種すれば、流行は終息しCRSはまれ~消失する。
* 2005.3 米国は風しんゼロを達成
ギリシアの風疹流行とCRS
ギリシャでは1975年ごろからMMRワクチンを1歳男女に導入したが、1980年代の接種率は50%以下と低迷していた。1992年に全国的大流行があり、翌年に25名のCRSが生まれた。日本の人口に換算すれば295人に相当する。
12.風疹流行とCRS(日本) 1975~77年 全国的大流行で人工妊娠中絶が激増し、さらに自然流産が22倍増加した。CRSだけでなく中絶や流産も増える。
先天性風疹症候群の報告数 2006~2021年
13.中南米や米国、オーストラリア、英国、日本の風疹とCRS
コスタリカでは2002年より風疹患者がゼロ、また先天性風疹症候群も2001年以来ゼロとなっている。
14.南北アメリカが打ち出した戦略
1.風疹ワクチンを含むワクチン(RCV)を、南北アメリカ大陸すべての国の生後12ヶ月児のルーチン予防接種に導入し、接種率を全自治体で95%超とする。
2.若年・成年者を対象とした単発の集団予防接種キャンペーン及び、 5歳未満を対象とした定期的なフォローアップキャンペーンを行う。
3.麻疹サーベイランスに風疹サーベイランスを組み入れ、CRSのサーベイランスを導入する。
南北アメリカ 風しん排除の定義
「北米、中米、南米およびカリブ海のすべての国において
1)12ヶ月以上、風疹ウイルス感染の地域的流行を阻止すること
及び
2)地域的流行によるCRSの発生をゼロにすること 」
15.2012年CRS新患数ワースト10に日本がランク・イン
1位 ベトナム 92人
2位 ジンバブエ 63人
3位 ルーマニア 55人
4位 カンボジア 32人
5位 チュニジア 18人
6位 スリランカ 12人
7位 日本 5人
7位 ルワンダ 5人
9位 タイ 2人
10位 オーストリア、チェコ、独、クウェート、マレーシア、 モーリシャス、ポルトガル、カタール、韓国、スペイン 1人
16.接種を勧めるべき対象者
1)近々、将来妊娠を希望する女性
2)成人男性
3)妊婦、妊娠希望女性の周囲—家族、親族、友人・知人、職場の同僚
参考にすべきもの
接種歴:母子手帳など公式の記録
罹患歴:検査診断で確実な場合
17.風疹ワクチン(RまたはMR)を接種する場合の注意点
・ 自然感染とワクチンでは基本的に異なる
・ 接種時、妊娠していないことを確認する
・ 接種後妊娠が判明したばあい、中絶は勧めない
・ 接種後の避妊:日本では2か月、WHOは1か月、(日本は周期が不規則な場合も想定)
・ 不顕性感染でCRSも有りうる
・ 妊婦の抗体検査ではその判断は慎重に
18.接種と妊娠
ブラジル 2001-2002年の大流行があった。妊娠を知らずに接種、または接種後30日以内に妊娠した2292例において、いずれもCRSの発生はなし
欧州のデータ
妊婦への接種 1586例でCRSなし
19.定期接種外での当院の風疹ワクチン
当院では現在1期、2期以外の風疹ワクチンは「麻しん風しんおたふくかぜ混合ワクチンMMR」で希望者に接種している。ワクチンはGSK社製で接種料金は8000円。
2013年9月
2016年3月更新