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新型コロナウィルス 感染とワクチン
「ただの風邪」ではない「コロナ」
1) 新型コロナウイルスによる世界的な大流行
Pandemic
第一次世界大戦からほぼ100年。スペイン風邪にも匹敵すると思われる新型コロナウイルスの流行は世界中の人々に大きな影響を与えた。また新しいワクチンが数か月で完成するという前代未聞の科学的進歩も実現した。スペイン風邪は3年で季節性インフルエンザへと勢力が弱くなったが、当時と現代社会では様々な点で異なる。医療体制が整備されていない国、内戦でワクチンどころではない国などでは流行の収束は目途が立たない。先進国と途上国では健康格差が拡大し続けており、途上国ではパンデミック終息に長期間を要するものと思われる。
「ただの風邪」だという「偽医学」「フェイクニュース」にご注意を!
2) 人に感染するコロナウイルス
1.風邪のコロナウイルス
人の風邪の原因となる4種類のコロナウイルスがある。ほとんどの子供が6歳までにかかる。多くは普通の風邪程度で冬に多く見られ、稀に高熱となる場合もある。多くの子供がこの風邪のウイルスに罹患し免疫を得るため新型コロナウイルス感染症にある程度の交差反応が生じて大人より軽症になることが報告されている。
2.重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)(病名は以下SARS)
コウモリを住処とするコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられている。
2002年11月16日に中国広東省の症例に始まり、台湾の症例を最後に、2003年7月5日にWHOによって終息宣言が出されたが、32の地域と国にわたり8,069人の患者と775人の重症肺炎で死亡(致命率9.6%)が報告された。
以後、症例は報告されていない。死亡した人の多くは、高齢者や、心臓病、糖尿病等の基礎疾患をもっていた人であった。子どもには殆ど感染せず、感染しても軽症の呼吸器症状を示すのみであった。
現在新たな患者は報告されていないが、コウモリなどにはウイルスが温存されていると思われるのでSARSが再登場する可能性は否定できない。
3.中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)(病名は以下MERS)
ヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすコロナウイルスであるが、たまたまヒトに感染すると重症肺炎を引き起こすことがあった。
最初の患者は、2012年にサウジアラビアで発見された。これまでに27カ国で2,566名の感染者がWHOへ報告され(2021年1月末時点)、そのうち881人が死亡した(致命率34.3%)。その大多数はウイルスに感染しても軽い呼吸器症状あるいは不顕性感染で済んでおり、高齢者や基礎疾患をもつ人に感染した場合にのみ重症化する。15歳以下の感染者は全体の2%程度であり、多くは不顕性感染か軽症である。ヒトからヒトへの伝播も限定的ではあるが、病院内や家庭内において重症者からの飛沫を介して起こる。
MERSの確定例の発症年月は以下の図にあるように現在でも少数ながら報告が続いている。
4.新型コロナウイルス感染症 (病名は以下COVID-19等)
2019年12月に中国武漢市で初めての流行が確認された。一般に武漢市から世界各地に感染が拡大したと考えられているが、スペインのバルセロナ大学の発表によると2019年3月採取の廃水から新型コロナが検出され、イタリアでは2019年9月に肺がん検査受診者の血液中から新型コロナウイルスの抗体が検出されていた。武漢市で報告される前から、世界中にウイルスが広まっていた可能性が、2020年3月時点で指摘されている。
① 感染経路
咳やくしゃみによる飛沫感染が主であり、ウイルスが付着した手で鼻や目や口を触ることにより目や口から侵入する接触感染もある。日常生活で接する量のウイルスでは1~6時間で失活することを米国CDCが公式サイトで発表した。接触感染の割合は5/10,000で、残りは飛沫感染による。
② 潜伏期間
潜伏期間は 1から14日間。世界保健機関 (WHO) は平均値を 5から6日、アメリカ疾病予防管理センター (CDC) は中央値を 4から5日としている。
当ウイルスに感染していても病気の症状が現れない無症状病原体保有者もいる。
③ 初期症状
インフルエンザや普通感冒と似ており、発症早期の段階では鑑別が困難である。初期症状は、肺に特有の発熱や咳だけとは限らず、下痢や嘔吐、頭痛や全身のだるさなど、消化器系や神経系の症状の場合もある。
④ 進行症状
症状が進むと細菌による肺炎が多くなり、その後に発症した肺炎はウイルス性のものが多いと見られている。重症化すると急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) や急性肺障害 (ALI) などを起こし、体外式膜型人工肺エクモが必要となる場合が多い。
⑤ 嗅覚喪失や味覚消失
2020年8月の研究では、患者の96%に何らかの嗅覚障害があり、18%では完全に喪失していた。2020年7月の欧州CDCの報告では、嗅覚喪失の有病率は約70%としている。嗅覚や味覚の障害は、若い患者に多く確認されている。
⑥ 合併症
血流でウイルスが体内に拡散され、肝不全、心不全、脳炎など中枢神経系感染、多臓器不全、全身の著しい内臓の機能低下を招く敗血症などを引き起こす。
*全身の血管炎をきたすことと、免疫の暴走(サイトカインストーム)により正常な組織にも障害を与えることがコロナの特徴といわれる。
⑦ 後遺症
新型コロナ感染症を「ただの風邪」という人もあるが、重症例や長引く後遺症に苦しめられている人が多く、「ただの風邪」では済まされない。後遺症は、倦怠感、呼吸苦、咳嗽、味覚・嗅覚障害などが主な症状であり、20歳代以降の全世代で高頻度に認められる。また回復後に出現する遅発性の後遺症はウイルス後疲労症候群と呼ばれ、脱毛、記憶障害、睡眠障害、集中力低下などがある。
3)コロナは全身感染症
コロナウイルスは全身に影響を及ぼす感染症で、軽症の場合は無症状から軽い風邪程度だが、免疫機構が暴走するサイトカインストームと呼ばれる状況になるとインフルエンザよりはるかに重症に進行する。呼吸器だけではなく全身の多臓器に影響を及ぼすことからも「単なる風邪」とはいえない。
4)コロナは全身性血管炎
コロナウイルスは全身の血管に炎症をきたす。小児では全身の血管炎である川崎病に類似した病態を示すことが知られている。
5)新型コロナウイルスワクチン
2019年12月31日、武漢市で原因不明のウイルス性肺炎発生が報告された。
2020年1月14日、新型コロナウイルスの遺伝子情報は国際核酸配列データベースGenBankで正式に公開された。
2020年12月2日、Pfizer & BioNTech社(以下ファイザー社)のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが英国で緊急承認され、現在多くの国で接種が開始されている。
2021年にはモデルナ社のmRNAワクチンや、アストラゼネカ社とジョンソン&ジョンソン社のベクターワクチンが認可され接種が始まっている。
驚異的なスピードでコロナワクチンが開発された理由は
① SARSやMERSなどコロナウイルスで長年にわたってワクチンの研究が進んでいた
② 効率的なワクチン製造工程が考案された
③ ウイルスの遺伝子情報がいち早く公開された
④ 莫大な財政支援があり、開発の失敗を恐れず、また複数の治験が並行して進められた
⑤ 規制当局が通常より迅速に審査を行い緊急承認した
注)米国は100億ドル(約1兆円)の公共投資が行われた(Operation Warp Speed)
ワクチンを作る上でラッキーだったことに
① コロナウイルスは変異を起こす頻度がインフルエンザやヘルペスウイルスなどと異なり低かった
② コロナウイルスが人の免疫系に対抗するための効果的な戦略をもっていなかった
などの理由があげられるという。
遺伝子RNAを用いたワクチンの開発
遺伝子を用いたワクチンの治療薬開発は1990年代から続けられてきた。SRASやMERSなどのコロナウイルスではワクチン完成には至らなかったが、いくつかの画期的な技術が開発され今回の新型コロナの流行には開発が間に合った。mRNAワクチンは擬似的なウイルス感染を体内で生じさせ、細胞性免疫と液性免疫の両方を活性化する技術である。
生ワクチンほど獲得免疫は強くないが、不活化ワクチンよりはかなり強い免疫が期待できる。また変異ウイルス出現に対しても塩基配列を変えるだけなので、迅速な対応が可能となる。
ワクチンの効果(mRNAワクチンの場合)
ワクチン接種後2w位になるとほとんど発症しなくなる。発症者数の累積数をみると、偽薬群では発症者が増加して行くが、ワクチン群では増えない。95%という高い有効性がしめされた。インフルエンザワクチンの有効性が40~60%であり、それと比較して90%台の有効率は非常に高い。
ワクチン有効性の意味
1回接種後7日から68.5%、14日後から92.6%、2回目接種7日後から94.3%の有効性あり(CDC)
新型コロナワクチン4種類の特徴と違い 2021年6月14日現在
開発企業 |
ファイザー |
モデルナ(武田) | アストラゼネカ |
ジョンソン &ジョンソン |
米国 | 米国/日本 | 英国 | 米国 | |
ワクチンの種類 | mRNA | ウイルスベクター | ||
接種回数と間隔 | 2回 21日間 | 2回 28日間 | 2回4~12週 | 1回 |
1回の接種量 | 0.3ml | 0.5ml | 0.5ml | 0.5ml |
保管温度 有効期間 |
-90~-60℃で 6ヶ月有効 |
-20±5℃ 2~8℃で30日 |
2~8℃ 6か月 |
-20℃で2年間 2~8℃で3ヶ月 |
1バイアル | 6人分 | 10人分 | 8-10人分 | 5人分 |
開封後の保管条件 |
希釈後、室温で6時間 |
室温で6時間 解凍後の再凍結は不可 希釈不要 |
室温で6時間 2~8℃で48時間 希釈不要 |
同じ温度での保存期間も 2年と長い。 解凍後2~8度でも3カ月保存可能 |
医療機関での保管 |
ドライアイス 超低温冷蔵庫 -25~-15℃で14日間 2~8℃の冷蔵庫で1か月間 |
冷凍庫 (-20℃±5℃) 2~8℃で3か月間 |
冷蔵庫 2~8℃で6か月 一度針をさしたものは、室温保存で6時間 又は 2~8℃保存で48時間以内 |
冷凍庫-20℃で2年 冷蔵庫2-8℃で3か月 未穿刺バイアルは、9~25℃で最大12時間 |
特徴 利点 |
接種による感染はない |
冷蔵庫保存可能 副反応が少ない |
冷蔵庫保存可能 1回接種で済む 重症化予防、変異株にも有効 |
|
誘導される免疫 | 液性免疫と細胞性免疫 | |||
弱点、注意点 |
温度管理やアナフィラキシー対策が必要 |
効果の持続が不明 血栓症* |
有効性やや低い? 血栓症* |
|
日本での認可 | 認可 | 認可 | 未認可 | |
PEG | 含む | 無し | 無し | |
ポリソルベート80 | 含まず | 含む | 含む | |
ラテックス | 含まず | 含まず | ? |
** 米国の CDCでは、ワクチンや注射薬に関係のない重度のアレルギー反応の既往歴(食物、ペット、毒、環境、ラテックスアレルギーなど)がある場合でも予防接種を受けることを推奨している)
*** 接種ができないのは、1回目のコロナワクチンでショックを起こした人、現在重病で治療中の人。
**** 過去に全くアレルギー歴のない人でも原因のはっきりしないショックを起こす危険性はゼロではなく、すべての人が稀にショックをきたす可能性は否定できない。たえずショックに備えておけば特に心配はない。
ファイザー モデルナ アストラゼネカ ジョンソン&ジョンソン |
ワクチンの副反応
副反応は免疫を作る過程で生じる。副反応の有無と免疫獲得の強弱は無関係。1回目より2回目の接種で、年齢は55歳以下、で起こりやすい。接種後に解熱鎮痛剤を使用することは可能。
副反応の種類と頻度
アナフィラキシー ショックが起こる頻度
ファイザー社のmRNAワクチンに含まれる成分
① mRNAワクチンの添加物は、他のワクチンで問題になった、アジュバント、卵、抗菌薬、ゼラチン、防腐剤(チメロサールなど)を含まない ② ワクチンに含まれるポリエチレン・グリコールPEGに重度~即時型のアレルギー反応の 既往があれば接種は禁忌 ③ ポリエチレン・グリコールと交差反応をきたすポリソルベートも禁忌 |
大腸内視鏡検査で腸内洗浄に使用される下剤(マクロゴール)にはPEGが含まれており、内服後にショックを来した例が報告されている。
PEGを含むマクロゴール下剤によるショック例
ファイザー社のmRNAワクチン接種で、約10万接種に1例アナフィラキシーショックを来した例の報告がある。アレルギー歴やショックの既往がなくても起こることがあり、すべての人で稀に起こりうる。
ファイザー社ワクチンでのアナフィラキシーショック例
モデルナのコロナワクチン接種後のショック事例は多くは13分までに生じている。
モデルナ社ワクチンでのショック事例
ファイザー社ワクチン接種後の全身反応の経過(N=8,183)
2日目に全身反応が起こりやすい
副反応対策
発熱 |
アセトアミノフェン(カロナールなど)200~500mg1錠を頓用 または1日に3回服用 |
接種部位の痛み |
アセトアミノフェン(カロナールなど)500mg1錠を頓用 または1日に3回服用 または漢方89番の治打撲一方の頓用 解熱剤と漢方の併用も可 |
全身倦怠感 |
漢方41番の補中益気湯を1回1包、1日3回 倦怠感が強い時は1回2包頓用 |
吐き気 |
漢方の17番五苓散1包の頓用、メトクロプラミド(プリンペランなど)を1回1~2錠食前に服用、1日2~3回の追加可。 |
接種した翌日に発熱や接種部位の腫れ、痛み、疲労感などがみられた時は、出来るだけ体を休ませるようにしてください。副反応がつらいときは、解熱鎮痛剤や漢方などの症状を鎮める薬を内服しましょう。あらかじめ処方してもらい準備しておくことをお勧めします。特に2回目接種の後に症状がより強くでることがありますので、初回の反応をみて2回目に備えてください。
*ワクチン誘発性免疫性血栓性血症板減少症(VITT)
アデノウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ製、ジョンソン&ジョンソン製)接種後28日以内(多くは1週間前後)に血症板減少症、出血、動脈/静脈血栓症の発生により重篤~死亡する例が10万人に11人程度報告されている。ベクターワクチンは遺伝情報が細胞内で複製された後で、不要部分を取り除く作業が行われるが、極まれにエラーが発生し、謝った位置で遺伝情報が切断され、不正な蛋白質の生成を生じているという説が提唱されている。もしこの説にそって改良がなされれば安全なベクターワクチンとなることも期待される。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/06/post-96433.php
6)mRNAワクチンの課題
① 温度管理
今まで多くのワクチンは2-8℃で保存されてきたが、mRNAワクチンは分解されやすい。今回Pfizerのワクチンはパンデミックへの早急な対応が求められ、緊急の特例承認を得るために―90~―60℃が選択された。2021年6月より「冷蔵保存で1ヶ月有効」と変更されたので、現場では管理しやすくなった。ただ冷凍での保存はー25~-15℃で14日以内のままである。
モデルナ社のワクチンは-20℃の保存となっている。ファイザー社より高温に設定されているのは企業秘密で理由は公開されていない。
mRNAワクチンは超低温の冷凍庫の設置と溶解後の管理が適切でないと効果が減弱するおそれがある。
またベクターワクチンのアストラゼネカとジョンソン&ジョンソンは2~8℃での保存が指示されている。
② アレルギー対策(特にアナフィラキシーショック)
ファイザー社のワクチンでは重症のアレルギーの頻度が100万人あたり22名。
インフルエンザワクチンの100万人あたり1.35人と比較してやや高いが、抗菌剤のセファロスポリンの100万人あたり1~1000人、解熱鎮痛剤の100万人の過去1年で30~500人程度と比較して特に多いとは言えない。ワクチンの成分にポリエチレングリコール(PEG)が含まれていて、突然PEGアレルギーが発生することがある。
日本でコロナワクチン接種時のアナフィラキシー報告ではアレルギー反応かショックなのかが判断できない事例が多く、紛れ込みを除外するために、より正確な記載が求められる。
ワクチンの副反応に関しては、国際的な判断基準である「ブライトン分類」をもとに評価されるが、やや煩雑で使いにくいことが欠点である。今後の普及のために簡便なフローチャートも検討されている。
注)ブライトン分類;ファイザー社のコロナワクチン適性使用ガイド23Pにも出ている
PDF:www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0312-12r.pdf 参照
7)その他
コロナウイルス感染症の重症度比較?
普通感冒としての4種類のコロナウイルス <新型コロナウイルス <SARS <MERS
コロナパンデミックの教訓
2009年の新型インフルエンザを経験したにもかかわらず、新たなパンデミックへの備えは軽視されてきた。SARS、MERSに続くさらなるコロナウイルスへの基礎的研究は予算もカットされ、中断してしまった。米英中ソなどが新しいワクチン開発に投資して、国家的な感染症に対する危機管理の一つとしてのパンデミックにいち早く対応したのと対照的にワクチンの実用化に遅れをとってしまった。基礎的な医学の軽視、専門家の意見を軽視する国の今後は明るくない。
小児へのワクチン接種
変異ウイルス株は感染力増強や重症化がみられるものもあり、若年層を中心に拡大してきている。変異株に対応するワクチンはmRNAワクチンでは短期間に完成するとされるので、今後ワクチンの改良が検討されるものと思われる。6か月以上~12歳までの小児への接種は今後の課題であり、全年齢への接種が進めば日常生活がコロナ以前に近い状態に戻ることが期待される。
コロナウイルス感染症の今後
ワクチンが普及しパンデミックが収束してくると、季節性インフルエンザ並みの流行に落ち着くのではないかと予測する人もある。実際には今後の経過を見ないと将来予測は困難である。
2021年6月